もくじ
一眼レフとは光との戦いである
不思議な標語ですが,本当にこれにつきると思うのです.
撮れた写真が暗すぎる・明るすぎるというのは致命的な失敗です.写真加工である程度はどうにかなりますが,それにしても出来るだけ避けたいものです.
光が足りないと暗く(アンダー),光が溢れてしまうと明るすぎて真っ白(白飛び)となってしまいますよね.
一眼レフで光の量を操作する方法は主に下記の三つです.
「絞り」はレンズ内を通る光の量を調節するための遮蔽物のことです.当然,絞りが開いていれば光は多く通り明るくなり,逆にしめれば(絞れば)光の量は減り,暗くなります.
(図: 絞り Ai AF NIKKOR 35mm F2D)
「シャッタースピード」は,シャッターを開いている時間のことで,言い換えれば閉じるまでの早さのことです.こちらも,当然シャッターを開いている時間が長いほど(シャッタースピードが遅いほど)通る光の量は増え明るくなります.逆に,シャッタースピードが速いほど光が通る量は減り,暗くなります.
「ISO感度」とは,撮像素子がどれほど光を敏感に捉えるかの尺度です.わかりにくいのですが,僅かな光量でも明るく捉えるような敏感な設定にしているときはISO感度は高い,逆ではISO感度は低い,と思ってください.夜間撮影用のビデオカメラなんかは高感度カメラとか言いますよね.高感度カメラはISO感度の高いカメラとも言えます.
カメラのオート撮影モードなどは,カメラに備わっている明るさを検知する仕組み(露光装置)により適切な光の量になるように,上記の三つの値を変更しつつ撮影条件を算出して,自動設定してくれています.
オートな撮影と,一部オートな撮影と,手動な撮影
カメラが明るさを計って勝手に絞り,シャッタースピード,ISO感度を決めてくれるなら,人があえて操作する必要なんてないじゃない?と思われるかもしれませんが,一眼レフの醍醐味はこれらの値を自分で決定することにあります.
絞り,シャッタースピードは写真の作風と密接な関係にあります.ISO感度もちょっと関係があります.
絞りによる作風の変化(F値)
絞りは最もわかりやすい作風の変化を生んでくれます.それは,「ボケ」です.
絞りは通過する光の量を調節するだけではありません.よく絞ることで,絞りの部分の中央を通り抜ける光だけを集めたり,逆に絞りを開き,まんべんなく光を通すようにする効果もあります.
詳しい解説は省略しますが,適量絞ると写真は鮮明となり,絞りを開くとピントが合った部分以外は「ボケ」となって表れます.この辺は「被写界深度」でググってみてください.
絞りの度合いを表す数値を F値(えふ-ち)と呼びます.この F値 が大きいほどよく絞ったことを意味し,F値 が小さいほど絞りを開いた状態を意味します.
(図: 前: F/3.2 後: F/14)
F値が違うだけでこんなにイメージが変わってしまいます.
オートな撮影にしてしまうと,撮りたいイメージと違うものになってしまうでしょう.
他にも,夜景などで絞り込むことによる放射状の光(光芒)を期待できることもあります(Coffee Break #2).
シャッタースピードによる作風の変化
シャッタースピードも作風に影響を与えます.わかりやすいのはスローシャッターによる動きの描写でしょうか.
(図: 前: SS 1/500秒 後: SS 1/5秒)
これは,シャッタースピード 0.002秒のものと,0.2秒のものの比較です(明るさが違う写真でスンマセン).
後者はゆっくりと撮影(露出)していますので,水しぶきが重なり合い,このような作風になります.
シャッタースピードが違うだけでこんなにイメージが変わってしまいます.
オートな撮影にしてしまうと,撮りたいイメージと違うものになってしまうでしょう.
その他,乗り物の撮影などで使われる,動いているものにあわせてカメラを向け,背景をわざとブレさせる「流し撮り」もシャッタースピードの調節なくしては実現しません.
(Coffee Break #2) 絞り・シャッタースピード・ISO感度あれこれ
絞りにはボケという恩恵があることは述べました.他にも,絞りがあってこその描写があります.それは光芒です.
光芒は光の回折により生じます.夜,街灯などを薄目で見ると,光が上下に出たりしませんか?これが光の回折です.
この光芒はレンズ内の絞りの形状によってどのように出るかが決まります.絞りは6枚〜8枚の板で構成されていますので,その板の枚数x2の光芒が生じます.(偶数枚のときは上下でカブって光芒の数が半分になりますが.)
しかしながら,昨今,円形絞りという板を上手く歪曲させてできるだけ円形な絞りになるように作られたレンズが多く,鋭い光芒は出なくなりました.
(図: 光芒 F/8)
ところで,絞りを強くするとよりクッキリと鮮明な写真となるかというと,案外そうではありません.
絞りすぎると先の回折の影響等により,画質が荒れていきます.
概ね,F/14〜16 あたりが上の限界ではないでしょうか.わざと暗くしたい(シャッタースピードを長くしたい)ときなどを除き,このあたりを上限としたほうがよいと思います.
シャッタースピードも限度があります.これは意図せぬブレのためです.
一般的に,ブレには「手ぶれ」,「被写体ブレ」 がありますが,シャッタースピードを長くすると,どちらも生じやすくなります.
手ぶれは三脚等々でなんとかなりますが,被写体ブレはどうしようもありません.
手持ち撮影のとき,シャッタースピードをどれくらいにすれば良いかの答えはありません.カメラの持ち方や撮影をするあなたがどれくらいプルプルするか,わからないからです.ただ,一般的に,焦点距離 XXmmなら,1/XX秒より早いシャッタースピードなら手持ちでもだいたい大丈夫と言われます.焦点距離70mmのレンズなら,1/70秒より早ければよい,という基準ですね.
また,最近はレンズに手ぶれ補正機能を持っているものがあります.ニコンのレンズだと VR とついているものですね.
ISO感度も限度があります.ISO感度は撮像素子の感度の良さですので,ISO感度を上げすぎると「ごく僅かな光の量を見分けて撮影する」ということになります.この場合,色や明るさの認識し間違えが生じやすくなり,ざらついた写真となります.機械だって,僅かなものの見分けは難しいということです.
Coffee Break まとめ
オートな撮影と一部オートな撮影
これまでに,絞り,シャッタースピード,ISO感度は光量を調節すると同時に,作風を決定づける設定量だというお話をしてきました.
オートはこれを全自動で決めてしまうため,期待通りの撮影とならないケースばかりになるということです.
一眼レフでは,これを全自動ではなく,一部オートにする撮影方法があります.
メーカーによって違いますが,ニコンでは下記のように分類しています.
- プログラムオート(P)
- シャッタースピード優先オート(S)
- 絞り優先オート(A)
プログラムオートは,明るさを維持した状態で,絞り・シャッタースピード・ISO感度を撮影者が配分できるモードです.暗いところでは配分の選択肢が少ないため,本当に明るい昼間・外くらいしか使えませんが,操作が少ない分すぐに撮影に取りかかれるメリットがあります.
シャッタースピード優先オートは,撮影者がシャッタースピードだけを決め,後の絞りとISO感度の設定をカメラに任せるというモードです.
絞り優先オートは,絞りだけ撮影者が決定し,シャッタースピードとISO感度の設定をカメラに任せます.
個人的には絞り優先オートの積極的な利用をおすすめします.このモードは本当におすすめです.ボケの勉強などにはもってこいです.私のカメラは常に絞り優先オートになっています.
マニュアルモード
絞り・シャッタースピード・ISO感度をすべて手動で設定するモードです.従って設定を間違えると,暗くなったり明るくなりすぎたりしてしまいます.
ニコン D7000 などでは,ファインダーに明るさが適量かを示すインジケータ(露光計)がありますので,これが適正となっているかを見ながら各設定を変更します.
三脚に据えて夜景撮影,などというとき以外では使うことはありません.
(Coffee Break #3) 段の概念
一眼レフを使う人と話していると,よく出てくる言葉が「段」です.
別にデジイチ2段とかそういう検定とか段位があるわけではなく,これはカメラにおける相対的な明るさの単位です.
絞り・シャッタースピード・ISO感度を決定すると,写真の明るさが決まりますよね.その写真を倍明るくすることを「一段上げる」と言います.逆に倍暗くする(半分にする)ことを「一段下げる」と言います.
わざと遮光して暗くするためのレンズフィルター(レンズの前に取り付けるガラス板)も売っていますが,うたい文句に「3段分光量を下げます」とか書いてあったりします.これは明るさを1/8にするという意味です(1/2 x 1/2 x 1/2).
シャッタースピードを倍にすれば(光が倍撮像素子に当たるので)倍明るくなります(一段上がる).逆に半分にすれば明るさは半分になります(一段下がる).
ISO感度を倍にすれば(撮像素子の受光感度が倍になるので)倍明るくなります(一段上がる).逆に半分にすれば明るさは半分になります(一段下がる).
絞りはちょっと違っていて,F値を√2倍にすると明るさは半分になります(一段下がる).逆に1/√2にすると明るさは倍になります(一段上がる).
F値だけちょっとわかりにくいですね.これは,F値を√2倍にする(絞る)という行為は,絞り部分を通過する光を半分遮断するということに当たります.逆に,1/√2にするという行為は,絞り部分を通過する光を倍にすることに相当します.
段の概念を理解すると,F値を一段下げて,シャッタースピードを一段上げて,結果明るさは変わらないけれど作風だけ変える,といったことが簡単にできるようになります.
頭で考えてもわかりにくいので,体で覚えるのがよいでしょう.
D7000などでは,F値ダイヤルを左に3ノッチ回して一段下げ,シャッタースピードダイヤルを右に3ノッチ回して一段上げるとか,「何回」ノッチを回したか,というところだけ一致させておけば簡単に調整できたりします.
その他,オートモードでの撮影(シャッタースピード優先オート,絞り優先オート含む)のとき,写真のできあがり明るさを調整するための露出補正機能を使っているときも,この段の概念を使います.ニコンでは露出補正の単位が EV となっていますが,これは段と同じです.
Coffee Break まとめ