これは信じられない本当なのか?

縦隔腫瘍を生じる胸腺癌と思っていたら治療後に誤診が発覚してびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫だったでござるな例.
しかも,最初は良性だと言われていたようです.

家に主治医から再検査の結果が出たと
電話があり、急遽本日受診しました。

まさかの胸腺癌ではなく
悪性リンパ腫との事。

「1年間、胸腺癌として治療してきたので
すみませんでした」と、謝られました。

その後、血液内科に受診。
抗がん剤をやるとの事で
明日入院と言われました。
が、急なので22日にしてもらいました。

初回は、2週間の入院で3ヶ月に
1回×8クールを*1
外来で抗がん剤
するとの事です。

胸腺癌→悪性リンパ腫 | 25歳で、胸腺癌になりました。 26歳で、悪性リンパ腫に変わりました。

これは信じられない.
うちのヨメも肺癌→ホジキンリンパ腫と所見・診断が変わったパターンです.日大板橋で「呼吸器の先生が10人いたら10人が肺癌っていうね!」くらいのことは言われましたし*2,仕事も辞めた方がいいとかいろいろ言われましたが,断言した所見を提示してなかったため完全な誤診とは言い切れなかった.もちろん,ダラダラ検査をするものだから診断が付くその前にこっちから見切りをつけてしまったわけですが.

生検とは何だったのか

この方は,縦隔に腫瘍があり,手術で切除しているのです.しかも,その際の生体組織検査(生検)で誤診をしています.
通常,この手の診断をつける場合はいきなり腫瘍を摘出するのではなく,針などで腫瘍組織をつまみだし,生検して診断をつけてから治療に入ります.
難しい場所の場合は諦めて手術に踏み切ることもありますが,生検で誤診するなどあってはならないのです.もちろん判定の難しい組織もあり,その場合は,クラス分けといって1〜5,つまり良性〜悪性まで,5段階の尺度で危険性を示しつつ診断します.つまり,生検でわかりにくいときは,クラス3(悪性かどうかわからない),クラス4(やや悪性所見)といった結果になるものなのです.

この方の損

この方は,一年も胸腺癌のつもりで治療をされています.治療にかかった抗がん剤の治療費もそうですが,それ以上に身体的な負荷,今後の生活・出産に多大な影響を与え,著しく人生を不利な状況にしてしまっています.
抗がん剤はハイリスクです.もちろん,それ以上にリスクのあるがん細胞を撃滅するためですからしょうがないのですが.
どうハイリスクなのかといえば,簡単に言えば「別のがんにかかるリスクが増大する」「体が弱くなる」などです.例えば,抗がん剤の影響により正常細胞が痛めつけられ,数年後にがんや白血病が生じるリスクがあります.他にも,一部の抗がん剤は心臓のように細胞の入れ替わりが遅い臓器に負荷をかけてしまい心筋梗塞などのリスクを高めます.
放射線治療をやっていれば,当然固形癌のリスクが高まります.

病院はなにをやっていたのか

少なくとも,下記のようなミスをしているように感じます.

  • 画像診断だけで当初良性と決めつけている.
  • 縦隔腫瘍であれば,胸腺癌はもちろん疑いますが,悪性リンパ腫も疑います.
  • 生検で誤診をしている(これが最大のミス.患者を取り違えたのか?というレベル)
  • 治療効果が上がっていないにもかかわらず,見直しをしていない

最後のは,生検を信じるのが普通なので仕方が無いかも知れませんが….
また,しょうもないことですが,いきなり切除に踏み切ったのも不思議です.針とか刺せなかったのかな? 前縦隔だということなので,普通に考えたら胸骨の脇から針を刺して検査すると思うのですが.
他にあげつらうと,PETが一年後というのも謎です.ガリウムシンチとかはやってんのかな?もしやってないなら単なる怠慢.PETは放射線同位体ブドウ糖に似せて体内に注入し,活動している組織(腫瘍)がその物質をどれだけ食べているかを撮影し,腫瘍を発見したりその規模を調べたりする検査法.普通,最初にやるだろこれ.

誤診がなければどうなった可能性があるのか

  • 無駄な治療費はかからなかった
  • 無駄な苦痛はなかった
  • 治療期間はもっと短くて済んだかもしれない(ステージももっと低く,R-CHOP 6クールでよかった可能性も)
  • 針生検をちゃんとやっていて診断が付いていたなら,腫瘍切除は不要だった
  • 仕事を辞める必要はなかった (職場次第ですが,R-CHOP なら,場合によっては治療期間の半分くらいは出勤できる人もいる)
  • 発がん性リスクの増大

ぼくだったら間違いなく裁判を起こす.精神的な苦痛も含め,2,000万円は請求するし,数百万は本当にとれるでしょう.
女性なのだから,長期の抗がん剤の影響で生殖機能に影響している可能性があり,その場合は,もっと請求してもいい.
誤診+抗がん剤投与で慰謝料 という判例もありますし.

まとめ

胸腺癌と誤診,治療後にびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と判明した人がいる.
信じられない.本当なの?
裁判を起こして良いレベル.
有明がん研に転院されるとのことですが,これで正解.*3

*1:注: 「2週間の入院で3ヶ月に1回×8クールを」の下りはたぶん書き間違いで,「2週間の入院で3週間に1回×8クールを」だと思います.

*2:確かに,前縦隔腫瘍が肺に突き刺さっていて,ヘリカルCTやPETでは肺癌に見える.でも断定までしてくれて,たぶんもうダメだから,仕事やめろとかはないだろと.

*3: 有明がん研はインフォームドコンセントの進んだ素晴らしい病院だと聞いています.詳しいことは,シラネ (゚⊿゚)