Nikon D7000 の位相差 AF を調整する

いきさつ

さきごろ,持っている D7000 の保証が切れることもあり,またやや後ピン傾向があったため,清掃込みでニコン新宿サービスセンターへ持ち込みし,工場で調整をしてもらいました.(id:Hie:20140429#1398781321)
しかしながら,結果は,「後ピンになるから再調整を」と依頼したにもかかわらず,「正常だったが念のため再調整」というコメントつきで,ますます後ピンに調整されて戻ってきたのでした.(id:Hie:20140511#1399812927, id:Hie:20140514#1400080052)

コントラストAF と 位相差AF の挙動から分かるピントのずれ

世代的に,D7000 あたりから,ニコンデジタル一眼レフにはライブビューモードが搭載されています.
これにより,通常の一眼レフでありながら,ミラーレス一眼レフやコンパクトデジカメのように,ディスプレイで被写体を見ながら撮影をするということができるようになりました.
これと同時に,従来一眼レフで用いられている「位相差AF」に加えてライブビューモードに限り「コントラストAF」を利用できるようになりました.
「位相差AF」だとか「コントラストAF」だとかの説明は「コントラスト」「位相差」2つのAFを理解する - ITmedia NEWSに譲りますが,簡単に言えばこんな感じです.

  • 位相差AF:従来から一眼レフで採用されてきたAF機構で,光の物理的な特性をセンサが読み取ることでフォーカスエリアの距離を測りピントを合わせる
    • メリット:距離を測ってからピントを合わせるため,AFが早い
    • デメリット:センサ任せのため誤差が生じやすい
  • コントラストAF:ミラーレス一眼レフやコンパクトデジカメで用いられるAF機構で,センサではなく認識した画像のフォーカスエリアにおけるコントラスト(鮮明さ)が最大となるようにピントを調整する
    • メリット:最終的な成果物である画像ベースが最もよく映るようにピント調整するため,ピンぼけは滅多におきない
    • デメリット:距離が分からないままAFを微調整してコントラストの最大となるピントを探すため,AFが遅い

コントラストAF」はセンサに頼らず,フォーカスエリアの写りがもっとも良くなるようにピントを合わせるため,かなり正確にピントが合います.そこで,カメラを三脚固定した上で,一旦ライブビューモードでピントを合わせておき(コントラストAF),その後ライブビューモードを解除し「位相差AF」でピント合わせをした際にレンズのピント調整が行われるかを確認することで,ピントが狂っているか知ることができます.
例えば,ぼくの場合は,位相差AFではピントを合わせたと思った位置よりやや後ろにピントがあってしまう「後ピン」という現象が生じていますが,「コントラストAF」でピントを合わせた後「位相差AF」でピントを合わせると,レンズのピントリングが回転し後ろにピントをあわせにいく傾向が確認されました.とくに,AiAFのようにピントリングが物理的に回転している様子が見えるレンズですと,一発でわかります.

ピントのズレの原因はどこにあるのか

前ピンや後ピンに気づいてしまったとき,ピントがずれる要因がどこにあるかを知ることはとても大事です.
その要因は,

  • カメラ本体
  • レンズ

どちらにもあえります.
極端な話,カメラ本体の「位相差AF」が後ピン傾向であっても,レンズが前ピン傾向であれば,結果的にピントが正常となることもあります.
しかしながら,レンズ毎にピントがやや前ピンだったり後ピンだったり微妙なズレがありますから,レンズが増えてくると必然的にどのレンズにも無難に対応できるよう,カメラ本体のピントが正常であることが求められます.
カメラ本体の「位相差AF」のピントの調整方法は後述のとおり,簡単に調整できます.
一方,レンズ側のピントの調整はできる場合とできない場合があります.
ここ数年のレンズ(超音波モーターのものなど)は,サービスセンターにてレンズ内にあるモーターを制御するための電子チップにピントのズレを補正する指示を書き込む事で,調整できる可能性があります.
しかしながら,AiAF のような,カメラ本体のモーターで動作する,ややオールドタイプのレンズは事実上調整不能です.分解作業となるため,新品を購入した方が安く付くかも知れません.

本体 D7000 のピント調整

D7000 のピント調整の方法は二つあります.

  • 「AF微調整」機能を使う
  • メインミラーの傾き調整により位相差AFを調整する

AF微調整

「AF微調整」はメニューにあるレンズ毎に若干ピントが合う距離を変更するカスタマイズです.
この機能は,本来,望んだ作風を得るために,ややピントを前後にずらせるようにという配慮で用意されたものですが,これを使って前ピン・後ピンを調整することができます.
D7000 は D7100 をはじめとした中級モデル〜搭載されている機能で,残念ながら D3200 などの廉価モデルにはありません.

メインミラーの調整

メインミラーの角度を僅かに調整することで,センサで見知する光の特性の振れ幅をかえることができ,結果としてAFの調整をすることができます.
ここでいう,メインミラーとはデジタル一眼レフカメラの基礎知識 - デジタル一眼レフカメラの構造 | Enjoyニコン | ニコンイメージング の「ミラー」部分です.
D7000 では,クリーニングミラーアップでメインミラーを上部に収納した後,正面からレンズ取り付け部をのぞき込むと,右部分に六角棒スパナを差し込む穴が見えます.これを回転させることで,メインミラーの角度を調整可能です.
しかしながら,ミラー調整をすると,当然ながらそれ以外の影響もあると思われます.ぼくには,ファインダー越しにみる風景がやや甘く見えるようになりました.気のせいかもしれませんが….
ニコンデジタル一眼レフの多くは,同様の方法でミラーの角度を変更できます.
なお,D3200 にもやはり同様の六角棒スパナ穴があります*1

D7000 ミラー調整

上記のとおり,D7000 では,ミラーアップ後に右側六角棒スパナ穴を回転させることでミラー角度調整⇒「位相差AF」微調整が可能です.
ここで用いる六角棒スパナは,1.5mm のものです.出来るだけ高級品を使いましょう.ナメると取り返しがつきません.また,レンチで撮像素子を叩いてしまったり,電源OFF等でミラーアップを解除してしまうと,カメラを壊してしまいます.十分に気をつけましょう.
ところで,ここを回転させれば「位相差AF」の調整はできると書きましたが,いったいどちらに回転させるのが正解なのでしょうか.
ぼくの D7000 は後ピンでしたが,下方向へ回転させることで,ピントを合わせることができました.
廃墟的絶対静寂空間 - ◆NIKON D7000 オートフォーカス 続報 では,同様の調整をしたことを報告されていますが,逆のことを仰っています.

 D7000をミラーアップさせると、実は右側壁面にネジが一つしかなかった。とりあえず、回るものなら回してみようと試してみた。
 確かに、AFの位置が変わる! 最初は更に前ピンにしてしまっていたので逆に回し、更にレンズ、距離を換えつつ微調整していった。
 ちなみに、手前を下側に回すと後ピンに、上側にまわすと前ピン方向に倒れる用で、自分の場合は90度くらい、下方向にまわす必要があった。

廃墟的絶対静寂空間 - ◆NIKON D7000 オートフォーカス 続報

従って,この報告が誤りであるのか,あるいは個体によって違うのか,はたまた何回か回しているとミラーが元の角度に戻ってしまうようなものなのか,よくわかりません.
なお,ぼくの肌感覚で恐縮ながら「AF微調整」の10目盛り分と同等の補正をするには,おおよそ45度程度の回転を必要と感じます.ダイナミックに回転させてしまいましょう.
その後,「コントラストAF」を使って正しく「位相差AF」が調整されているか確認するとよいでしょう.

ピント調整をする環境

最後に,AF調整をする環境について述べておきます.

ピントを調整するときの被写体

ピント傾向を確認するのによく使われているチャートがありまして,これを使って前ピンだとか後ピンだとかを調整している人が多いようです.
例えば,下記のようなものが公開されています.

しかしながら,この手のチャートは慎重に使う必要があります.特にナナメ撮影で前ピンか後ピンか「断定」するのはよろしくありません.
なぜかというと,位相差AFのフォーカスエリアは意外と広く,そのフォーカスエリア内のどこにピントが合うかは明確ではないからです.ですから,ナナメから撮るのではなく,正面から撮るのがよろしい.
その点では,後者のページにある,2つめのチャートはなかなか使い勝手がよさそうですね.的部分をカメラに正面相対させピントをしっかり合わせた後に,左右のナナメ部分で前ピン・後ピン傾向を把握できます.
「私の D90 は後ピン」alfreadのブログ | Kingdom Of Desire - 欲望の王国 - みんカラ では,このチャートを使って,物理的な見知から前ピン・後ピン判定をしています.すばらしい.ぼくもこういった小道具を作って是非トライしてみたい.
ここで言いたいのは,コントラストがはっきりした平面的な被写体を真っ正面から撮ることが重要だということです.
また,カメラのAF精度を自作のテストチャートで確認する方法!【キット配布】 | studio9 では段ボールにチャートを貼り付けるためのキットを公開しています.私も使ったことがありますが,意外と使える!

被写体までの距離

前節で紹介したピントチャートを使った例はブログなどに数多くありますが,(レンズによりますが)多くは数十センチの距離から撮影したものです.
これはこれでよいのですが,本当にそれでよいのでしょうか?
例えば,50cm離れたチャートを撮影してピントを調整した場合,当たり前ですが,その環境ではぴったりとピントが合いますが,その他の距離でのピントは保証されません.
ですから,そのレンズでどの程度の距離のものをよく撮っているかを考えた上で,撮影距離を決める必要があります.
ニコンD300【第6回】AF微調節の使い方 が参考になると思います.

光源

実は,光源の色温度によって「位相差AF」には誤差が生じうるのです.ですから,室内で完璧に調整されたAFは,屋外でピントが合う保証はありません.サービスセンターではタングステン光で調整とか聞いたこともありますが,当然その環境ではピントがあっていても,他ではそうはならないかもしれないわけです.
ソースを提示するのは面倒だからしませんが,自然光で調整がよくて蛍光灯はダメだみたいな論調を kakaku.com あたりで見かけることもあります.
ところで,ホワイトバランス設定で光源を明示的に選択している場合は,「位相差AF」の結果を自動的に微調整しているかもしれません.もしこれが正しいなら,室内蛍光灯で調整せざるをえないとき,ホワイトバランスを蛍光灯に設定して調整すれば,極端なピント設定になりにくいかもしれません.

●色=波長によって異なるピント位置(102ページ)
 光源によってピントの位置は変わる。そういう言い方をこの記事ではしていませんが,そういうことです。従って,電球と太陽光ではピントの位置は変わります。撮り方によって,それが表面化する場合としないことはある思いますが。
 ニコンはメーターがRGBを見ているので,ピントを合わせる際にだいたいの色温度を知ることが出来る筈で,それをAFの補正係数に使っていると推察しています。
 キヤノンはメーターにRGBを使っていないので,ニコンのような芸当が出来ませんでした。最近の機種はAFセンサーにそれらしいセンサーを追加したので,これを使ってAFの補正係数に使っているのだと思っています。

ピントが合わない!? : カメラ小僧の憂鬱
その他

ズームレンズでは,ズームのテレ端(最望遠側)とワイド端(最広角側)でピントが微妙に違ったりします.
ですから,お気に入りのズームレンズでAF調整するときは,よく使うレンジで合わせると良さそうです.
また,AF調整時は,絞り開放のほうが被写界深度が浅くなり,ピンぼけをわかりやすくしてくれます.F値は最小で調整しましょう.

結局好きなように合わせよ

自然光ガーとかタングステン光ガー,みたいな人が多いのですが,ぼくは室内のLED電球(電球色)のもとで,一番お気に入りの単焦点レンズを使って適当に本体のAF調整を済ませました.

  • 場所:室内
  • 光源:LED電球(電球色)
  • 調整に使ったレンズ:AiAF NIKKOR 35mm f/2D
  • 被写体:直立させたHDDのラベル
  • 被写体までの距離:2m くらいの距離

室内で適当に調整してもいいや,と決めたのにはちゃんと理由があります.
室内は暗く,絞りを開放気味にするケースが多いような気がします.一方外は,(昼間であれば)ある程度絞っており,被写界深度が深くなることからピンぼけは気づきにくくなります.そのため,室内のほうがピンぼけにはシビアな環境であることから,室内をベースに本体の「位相差AF」を調整しました.
また,撮影距離も比較的近くに設定したのも,室内ならではです.
一番お気に入りのレンズが使いやすいように設定されていれば,いいんじゃないですかね.

結果

室内はもとより,外でも特に気になるようなピンぼけは今のところありません.まんぞく.

追記: 初心者向け一眼レフのコントラストAFは当てにならない(2014/8/21)

D3200のピント調整も同様にできるのですが,上記のコントラストAFとの比較によりピント調整を詰めていくのは困難と分かりました.
正確に述べれば,晴天外など光の強い環境でしかピント調整をやるべきではないと思います.

というのも,コントラストAFのズレが結構大きくて,暗い環境ですと,位相差AFのほうがぴったりみたいなケースが多いんです.
特に室内ですと,フリッカー設定をしていても,蛍光灯のノイズが入り,誤差が出まくりです.

というわけで外でやるか,ピントチャートを使って詰めるかしましょう.

*1: D3200 は D7000 と異なり,2つ棒スパナ穴があり,おそらく一方は,「位相差AF」調整専用の穴で,もう一方がミラーの角度調整穴だと思われます.どっちがどっちかわかりませんが,どちらを回しても結果的に「位相差AF」を調整することになると思います.しかしながら,ミラー角度変更は,露出に関するセンサにも影響を与えうるので,可能であれば位相差AF調整の方だけを調整したいものです.